[不当解雇]試用期間で解雇された場合(労働審判)

僕は会社を不当解雇され、労働審判を起こすことになりました。

僕の体験含めた労働審判について詳しい内容を知りたい方はまとめた記事を見てくださいね。

労働審判についての記事まとめ

ネットの体験談では、長年勤めた会社へ不当解雇や残業請求の訴え…といった内容は結構出てきました。

しかし、新人かつ試用期間内という短期間で解雇されて、労働審判まで発展したという内容は見当たりませんでした。

僕は入社半年の試用期間内で解雇され労働審判もやることとなりました。

この記事では

・試用期間で解雇しても許されるのか?
・労働審判では試用期間ってどう見られるのか

この2つを書いています。



試用期間は解雇し放題じゃない

厚生労働省が出している試用期間についての説明は下記の通りです。

基本的な方向性

(1) 入社当初に結んだ労働契約に期間を設けた場合、その期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、当該期間満了によりその契約が当然に終了する旨を当事者が合意しているなど特段の事情がないときには、当該期間は、解約権が留保された試用期間と解されます。
(2) 試用期間である以上、解約権の行使は通常の場合よりも広い範囲で認められますが、試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。
(3) 試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれることから、その適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りにおいて無効と解されます。

3-4 「試用期間」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性  – 厚生労働省 より

試用期間は雇用した労働者が会社になじむかどうか適性を判断する期間というのが、割と浸透している考え方です。

各会社の就業規則の中に試用期間の具体的な長さや、本採用を見送る事もあるなどといった内容が書かれています。

しかし試用期間というのは特に法律で定められたものではなく、期間も企業によって様々。

長年勤めている人との解雇と同一視されず解雇の要件も少し緩くなりますが、待遇も正社員と同じ扱いですから無期雇用となります。

僕の会社にいたっては、労働契約書に「雇用期間の定めなし」と書いて雇用したのにもかかわらず、

「試用期間中は契約社員!解雇じゃなくて契約満了だ!」

と主張してきました。

もちろん契約書の内容を無視して勝手に契約社員にすることなんてできません。

仮に有期雇用の契約社員だったとしても、無期雇用を前提として試用するために設けているという場合、無期雇用の試用期間とみなされる判例もあります(平成2年 神戸弘陵学園事件)。

試用期間の正しいルールを知らない人って、そう珍しいわけでもないのです。



労働審判では試用期間はどう扱われるか

労働審判だと、会社側は解雇する人の問題点を1つでも多く挙げて「改善の見込みがない」と、試用期間での解雇の有効性を主張してきます。

僕の会社の就業規則にも「試用期間中に従業員として不適格と認められた者は、解雇することがある。」と記載がありました。

就業規則は、社員が見たいときにいつでも読める状態にして周知する必要が労働基準法第106条で定められています。

業務で使うワケではないので読む人はそういないでしょうが、この法律により就業規則の内容は社員全員が知っていることが前提となります。

会社側は証拠品として、試用期間での扱いについて証拠品として就業規則を提出してきます。

そして、会社側は試用期間での解雇を有効と主張する根拠として、試用期間での解雇が認められた三菱樹脂事件の内容を持ち出してきます。



試用期間中の解雇について争点になった三菱樹脂事件

労働法を勉強する上では基本中の基本レベルの三菱樹脂事件というのがどういう事件だったか、ものすごく簡単に説明すると、

面接試験の段階

企業「学生運動に参加しましたか」
学生「していません!」
企業「それでは採用!」

入社後

企業「調べたら学生運動に参加していた!ダマされた!本採用拒否!」
元学生「思想を理由で採用しないなんてできるわけがない!訴えてやる!」

最高裁「採用の自由は会社にあるから思想とかで判断して本採用拒否しても問題ない」

この事件は地裁と高裁の段階では「思想・信条の自由」に触れるということで、解雇無効の訴えが受け入れられました。

しかし最高裁では「どんな思想や信条を持っているかで雇用するかを決めるのは企業の自由」という判断を示しました(高裁に差し戻して最終的に和解したので判決は下らず)。

ちなみにこの事件、「学生運動」という内容から勘のいい人は気づいたかも知れませんが、1973年の50年近く前の内容です。

写真は三菱樹脂事件の原告(労働者)が参加した60年安保闘争のもの。

僕は平成生まれなので全然ピンと来ないんですが、こんなことやってた時代もあったんですね。

今もよく引き合いに出されますが、現在は「思想や信条に関わることを調査してはならない」と定められています(職業安定法5条4項)。

現代であれば、最高裁でも解雇無効が言い渡されたことでしょう。

ちょっと長いですが、労働審判で会社側がこの法律を根拠に解雇有効を主張してきたときの内容をそのまま下記に掲載します。

最高裁昭和48年大法廷判決(民集第27巻11号1436頁)は、試用期間の定めを解雇権の留保と解した上で、留保解約権に基づく解雇は「これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものであるといわなければならない」とし、留保解約権の行使は「上述した解雇権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当」であるとした。そして、続けて「企業者が、採用決定後における調査の結果により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に庸備しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、さきに留保した解約権を行使することができる」と判示した。

広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」とあるように、通常の社員よりも試用期間中の新入社員は解雇しやすいです。

長年在籍してる人を解雇するのと、入ったばかりの人を解雇するのは重みが違うということですね。

とはいえ、解雇するのも「客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当」とあるように無条件で解雇OKというワケではありません。

最後の「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実」というのは、例えば面接で重大な経歴詐称があった場合です。

三菱樹脂事件では面接の段階で学生運動に参加していないと言ったことが虚偽だったことが発覚して問題になりました。

とはいえこの理由での解雇は納得できる話です。

例えば、「大型免許を持ってるトラック運転手」として雇用された方が、採用後に免許を持っておらず、履歴書にウソの記載をしていたことが発覚した…

という内容だったら認められる可能性があるわけです。

逆を言えば、能力不足とか期待外れとかそういう理由で解雇する場合、この事件は全然当てはまりません。

業界未経験者や新卒の場合は即戦力にならないってわかって雇用しているわけですから、「お前は使えない」といってクビを切ることはできないのです。